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2025/5/28
#法令対応

下請法・下請振興法改正が委託先管理・サードパーティリスク管理(TPRM)に与える影響とは?

近年、企業の事業活動において外部委託の重要性が増しています。業務効率化や専門性の活用といったメリットがある一方、委託先・サードパーティ(供給業者、販売代理店、業務委託先など)に起因するリスクも多様化・複雑化しており、適切な管理体制の構築が不可欠です。

このような状況下、令和7年(2025年)3月に「下請代金支払遅延等防止法」(以下、下請法)および「下請中小企業振興法」(以下、下請振興法)の改正法案が閣議決定されました。これらの改正は、単に下請取引のルール変更にとどまらず、企業の委託先管理サードパーティリスク管理(TPRM) のあり方に大きな影響を与える可能性があります。

本記事では、今回の法改正の概要を解説し、それが企業の委託先管理・サードパーティ管理にどのような影響を与え、どのような対応が必要になるのかを解説します。

【解説】下請法・下請振興法 改正法案のポイント

今回閣議決定された法案は、近年の労務費、原材料費、エネルギーコストの高騰を踏まえ、サプライチェーン全体での「構造的な価格転嫁」の実現を目指すものです。改正の主なポイントは以下の通りです。

下請法の主な改正点

  1. 協議なき価格決定の禁止: コスト上昇分を反映せず一方的に価格を決定・据え置くなど、中小受託事業者の利益を不当に害する行為が禁止されます。これは、従来の「買いたたき」とは別に、交渉プロセス自体を重視する規定です。
  2. 支払手段の制限(手形等の禁止): 支払手段として手形を用いることが原則禁止され、電子記録債権やファクタリング等も実質的に現金と同様の条件を満たさない限り認められなくなります。これにより、受託側の資金繰り負担軽減が図られます。
  3. 運送委託の対象追加: 従来対象外だった発荷主から元請運送事業者への運送委託も法の対象となり、荷役・荷待ち問題などへの対応が強化されます。
  4. 適用対象の拡大(従業員基準の追加): 従来の資本金基準に加えて「従業員数」基準が追加され、実質的に事業規模が大きい事業者や減資によって適用を免れていた事業者も対象となる可能性があります。
  5. 面的執行の強化: 事業所管省庁にも指導・助言権限が付与され、公正取引委員会・中小企業庁との連携が強化されます。また、事業所管省庁への申告も「報復措置の禁止」の対象となります。
  6. 用語の見直し: 「親事業者」が「委託事業者」、「下請事業者」が「中小受託事業者」となるなど、実態に合わせた用語に変更されます。
  7. その他: 金型以外の木型・治具等の製造委託対象への追加、電磁的方法による書面交付要件の緩和、減額に対する遅延利息規定の追加、違反行為是正後の勧告規定整備などが盛り込まれています。

下請振興法の主な改正点

  1. 多段階連携支援: 直接の取引関係だけでなく、サプライチェーン上の複数段階の事業者が連携する振興事業計画も支援対象となります。
  2. 国・地方公共団体の責務新設: 地方公共団体にも受託中小企業の振興努力義務が課され、国との連携強化が図られます。
  3. 主務大臣の権限強化(勧奨): 指導・助言で改善しない事業者に対し、より具体的な措置の実施を促す「勧奨」が可能になります。
  4. 適用対象の追加: 下請法改正と同様に、発荷主-運送事業者間の取引や、資本金基準によらない従業員基準による委託事業者も指導・助言・勧奨の対象となります。
  5. 用語の見直し: 下請法同様、「下請中小企業」が「受託中小企業」などに変更されます。

法令・ガイドラインと情報管理・セキュリティ課題

企業が外部委託を進める際には、下請法のような取引に関する法令遵守はもちろんのこと、個人情報保護法サイバーセキュリティ関連法規業界特有のガイドライン(例えば金融業界におけるFISC安全対策基準など)への準拠も求められます。

特に近年、サプライチェーンを狙ったサイバー攻撃が増加しており、委託先がセキュリティインシデントの起点となるケースが後を絶ちません。委託先における情報管理体制の不備、セキュリティ対策の甘さが、委託元企業の機密情報漏洩、サービス停止、レピュテーション低下といった深刻なリスクに直結します。

このような背景から、委託先・サードパーティが適切な情報管理・セキュリティ対策を講じているかを確認・監督する委託先管理TPRMの重要性が高まっています。

法改正と委託先管理・サードパーティリスク管理(TPRM)の関係性

今回の下請法・下請振興法の改正は、委託先管理・TPRMに以下の点で影響を与えます。

  • 管理対象範囲の拡大: 運送委託の追加や従業員基準の導入により、これまで下請法の適用対象外と考えていた取引先が、新たに管理対象となる可能性があります。自社の取引関係を見直し、適用対象となる委託先を正確に把握し直す必要があります。
  • 契約・取引条件の見直し: 協議なき価格決定の禁止や支払手段の制限は、契約内容や実際の運用における見直しを迫るものです。単に法令遵守の観点だけでなく、委託先との健全な関係構築のためにも、契約条件の妥当性、価格決定プロセスの透明性、支払条件などを再評価する必要があります。これは、リスク評価の一環としても重要です。
  • 委託先評価項目の追加: 法令遵守状況は、委託先リスク評価の重要な項目です。今回の改正内容(価格協議への姿勢、支払条件、報復措置の有無など)を評価項目に追加し、定期的なモニタリング体制に組み込むことが求められます。特に、事業所管省庁からの指導・助言・勧奨の有無は重要なリスク指標となり得ます。
  • サプライチェーン全体のリスク管理: 下請振興法の改正は、サプライチェーンのより深い階層まで視野に入れたリスク管理の必要性を示唆しています。自社の直接の委託先だけでなく、その先の二次、三次委託先(Nth Party)における法令遵守状況やリスクについても、可能な範囲で把握・評価する体制(Tier管理・再委託先管理)の検討が望まれます。
  • コミュニケーションと関係性の強化: 一方的な価格決定の禁止は、委託元と委託先間の対等なコミュニケーションの重要性を強調しています。リスク管理の観点からも、平時から委託先と良好なコミュニケーションを保ち、課題や懸念点を共有できる関係性を築くことが、インシデントの早期発見や未然防止につながります。

これらの変化に対応するためには、従来の委託先管理プロセスを見直し、より網羅的かつ継続的なTPRM体制を構築することが不可欠です。

あらゆるリスクを低減させるためにも、委託先管理体制を再点検・整備することが急務に

下請法・下請振興法の改正は、委託先との取引条件や管理体制の見直しを企業に求めるものです。特に、適用対象の拡大や禁止行為の追加は、企業の委託先管理・TPRMに直接的な影響を与えます。

コンプライアンス違反のリスク、サプライチェーンリスク、レピュテーションリスクなどを低減するためにも、自社の委託先管理体制を再点検し、法改正に対応したプロセスを整備することが急務と言えるでしょう。

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