Lens Blog
2025/4/28
#法令対応

フリーランス保護新法が委託先管理を変える?企業が知るべき影響と対策

働き方の多様化に伴い、フリーランスとして活躍する人材が増加しています。企業にとっても、専門性の高いスキルを持つフリーランスへの業務委託は、事業運営における重要な選択肢となっています。しかし、その一方で、発注者側とフリーランスの間での取引上のトラブルや、情報管理に関するリスクも顕在化してきました。

こうした背景を踏まえ、フリーランスの権利保護と取引の適正化を目的とした「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス保護新法」が制定され、公布から2年半以内に施行される予定です。この新しい法律は、フリーランスに業務を委託する企業にとって、委託先管理やサードパーティリスクマネジメント(TPRM)のあり方に大きな影響を与える可能性があります。

本記事では、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局・公正取引委員会事務総局・中小企業庁・厚生労働省が連名で公開している資料「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)について」を基に、フリーランス保護新法の概要を解説し、企業が委託先管理において取るべき対応について考察します。

「フリーランス保護新法」とは?制定の背景と目的を解説

フリーランス保護新法は、フリーランス(特定受託事業者)と発注事業者(特定業務委託事業者)との間の取引を公正にし、フリーランスが安定して働ける環境を整備することを目的としています。

なぜ今、フリーランス保護新法が必要なのか?

日本国内のフリーランス人口は近年増加傾向にあり、多様な働き方を支える重要な存在となっています。しかし、その多くが企業との取引において、契約内容の不明確さ、報酬の未払いや遅延、一方的な契約解除といったトラブルを経験している実態が明らかになりました。

  • 取引上の立場の弱さ: フリーランスは個人で事業を行うため、企業に対して交渉力が弱い立場に置かれがちだった
  • 契約慣行の問題: 口頭での依頼や曖昧な契約条件、下請法が適用されないケースなど、法的な保護が十分でない状況があった
  • 新しい働き方への対応: ギグワーク(雇用関係を結ばない単発・短時間の働き方)など、新しい形態の業務委託が増える中で、従来の法制度ではカバーしきれない課題が出てきた

こうした課題を解決し、フリーランスが安心して能力を発揮できる環境を整えることが日本経済全体の活性化にも繋がるという認識から、本法律が制定されました。

法律の対象となる事業者

この法律は、業務を委託する側と受託する側の双方に適用されますが、一定の条件があります。

  • 特定受託事業者(フリーランス側): 業務委託の相手方である事業者であり、従業員を使用しない個人または法人を指す。いわゆる「フリーランス」や「一人社長」などが該当する
  • 特定業務委託事業者(発注者側): 特定受託事業者に業務を委託する事業者であり、従業員を使用する法人または個人を指す。ただし、従業員を使用しない事業者であっても、政令で定める一定の資本金以上の法人から継続的に業務委託を受ける場合は、特定業務委託事業者とみなされることがある

つまり、多くの企業がフリーランスに業務を委託する場合、この法律の規制対象となる可能性が高いと言えます。

発注事業者(特定業務委託事業者)に課される義務

フリーランス保護新法では、発注事業者に対して主に以下の義務を課しています。

  • 給付内容等の明示義務: 業務委託をする際、委託する業務の内容、報酬額、支払期日などの契約条件を、書面または電磁的方法(メールなど)で速やかに明示しなければならないこれにより、契約内容の曖昧さをなくし、後のトラブルを未然に防ぐ
  • 報酬の遅延防止: 原則として、給付を受領した日(納品日など)から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、遅延なく支払う必要がある
  • 一方的な減額や返品の禁止: あらかじめ定めた報酬を、フリーランス側に責任がないにも関わらず一方的に減額することや、納品された成果物の受け取りを拒否したり、返品したりすることは原則禁止されている
  • 買いたたきの禁止: 通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬額を不当に定めること(買いたたき)は禁止されている
  • その他: 上記以外にも、不当な経済上の利益提供の要求や、やり直しの要求なども、フリーランス側に責任がない場合は禁止されている

これらの義務は、下請法における親事業者の義務と類似する点が多く、フリーランスを保護するための具体的な措置として定められています。

フリーランス活用における情報管理・セキュリティの課題

フリーランスへの業務委託は、専門スキルへのアクセスやコスト効率の面でメリットがある一方、企業にとっては特有のリスクや課題も存在します。フリーランス保護新法への対応と合わせて、これらの課題にも目を向ける必要があります。

情報セキュリティリスク

フリーランスに業務を委託する際、企業の機密情報や顧客の個人情報へのアクセスを許可するケースがあります。しかし、フリーランス個々のセキュリティ対策レベルは様々であり、企業が直接管理することも困難です。

  • 情報漏えい 委託したフリーランスのPCがマルウェアに感染したり、公共のWi-Fi利用時に情報が盗まれたりするリスク
  • 不正アクセス: 委託終了後もアクセス権が残存し、不正に利用されるリスク
  • ルール不徹底: 企業が定めるセキュリティポリシーがフリーランスに十分に周知・遵守されないリスク

契約・コンプライアンス上の課題

フリーランス保護新法は契約内容の明確化を求めていますが、それ以外にも契約やコンプライアンスに関する課題が存在します。

  • 契約内容の曖昧さ: 業務範囲、責任分界点、知的財産権の帰属などが不明確なまま業務が進み、トラブルに発展するケース
  • 偽装請負: 実態として労働者に近い働き方であるにも関わらず、業務委託契約を結んでいる場合、偽装請負とみなされるリスク
  • 管理の煩雑さ: 多数のフリーランスと個別に契約し、請求・支払処理を行うことによる管理部門の負担増

これらの課題は、企業のレピュテーション(評判)低下や、法的な責任問題に繋がる可能性があり、適切な管理体制の構築が求められます。

フリーランス保護新法と委託先管理・サードパーティリスクマネジメント(TPRM)の関係性

フリーランス保護新法は、単にフリーランスとの契約条件を見直すだけでなく、企業の委託先管理、特にTPRMのあり方そのものに影響を与えます。フリーランスも重要な「サードパーティ(第三者)」であり、その管理は企業のリスク管理戦略の一環として捉える必要があります。

契約管理プロセスの見直し

新法で定められた「給付内容等の明示義務」に対応するため、契約プロセス全体の見直しが必要です。

  • 契約テンプレートの整備: 新法の要件を満たした契約書のひな形を作成し、やりとりする際は利用を徹底する。業務内容、報酬、支払期日、知的財産権の帰属、秘密保持義務などを明確に記載する
  • 契約締結プロセスの電子化・効率化: 多数のフリーランスとの契約を効率的に、かつ確実に締結・管理するために、契約管理システムの導入などを検討。契約内容の変更履歴なども適切に管理する必要がある

支払い・検収プロセスの適正化

「報酬の遅延防止」や「不当な返品の禁止」に対応するため、支払い・検収プロセスを整備し、遵守を徹底する必要があります。

  • 支払期日の設定と管理: 納品日から60日以内というルールを遵守し、社内の承認プロセスや経理処理のリードタイムを考慮して支払期日を設定・管理する
  • 検収基準の明確化: 成果物の受け入れ基準を事前に明確にし、フリーランスと合意しておくことで、一方的な受領拒否や返品を防ぐ。検収プロセスを迅速化することも重要

コミュニケーションと関係構築

新法は、フリーランスとの対等なパートナーシップを促す側面も持っています。一方的な指示や要求ではなく、適切なコミュニケーションを通じて良好な関係を築くことが、トラブル防止や質の高い成果に繋がります。

  • 定期的な情報共有: 業務の進捗や課題について、定期的にコミュニケーションを取る機会を設ける
  • フィードバック: 成果物に対するフィードバックは、具体的かつ建設的に行う

サードパーティリスクマネジメント(TPRM)の強化

フリーランスを重要なサードパーティと位置づけ、TPRMのフレームワークの中で管理していく視点が不可欠です。

  • リスク評価: フリーランスに委託する業務内容に応じて、情報セキュリティリスク、コンプライアンスリスク(新法違反リスク含む)、事業継続リスクなどを評価する
  • デューデリジェンス: 契約前に、フリーランスの本人確認、スキル、実績、そして情報セキュリティ対策の状況などを確認する(ただし、過度な要求にならないよう配慮が必要)
  • 継続的なモニタリング: 契約期間中も、フリーランスによる新法遵守状況や情報セキュリティ対策の実施状況などを定期的に確認する仕組みを検討する
  • 教育・啓発: フリーランスに対して、企業のセキュリティポリシーや個人情報保護に関するルール、そして新法の内容について周知・教育する機会を設ける

フリーランス保護新法の施行は、企業にとって委託先管理体制、特にフリーランスとの関わり方を見直し、強化する良い機会となります。法遵守はもちろんのこと、リスク管理の観点からも、より戦略的で体系的なアプローチが求められています。

フリーランスも重要な委託先管理対象だからこそ、新法の内容を理解して対応する必要がある

フリーランス保護新法は、フリーランスの保護を強化するとともに、発注者である企業に対して、より透明性が高く公正な取引を求めるものです。この法律への対応は、単なる法務・コンプライアンス部門の課題ではなく、事業部門、経理部門、そしてリスク管理部門が連携して取り組むべき経営課題と言えます。

特に、委託先管理やTPRMの観点からは、フリーランスも重要な管理対象であり、契約管理、支払管理、情報セキュリティ管理、そしてコンプライアンス遵守の徹底が不可欠です。新法の内容を正しく理解し、自社の管理体制を見直し、必要なプロセスやシステムを整備していくことが、今後の安定的な事業運営とリスク軽減に繋がります。

Lens RMでは、委託先管理・サードパーティリスク管理ソリューションを提供しています。本記事で解説したフリーランス保護新法への対応を含め、委託先管理の高度化や効率化について、お気軽にご相談ください。

AIの力で委託先・サードパーティ管理に革新を。

AIの力で委託先・サードパーティ管理を高度化・効率化しませんか? Lens RMは、煩雑な業務を削減し、リスク評価を強化し、包括的なリスクの所在を確かめた上で本質的な対応策や残存リスクの管理に集中することができます。 まずは、お気軽にお問い合わせください。