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2025/4/28
#ガイドライン

金融分野における個人情報保護ガイドラインが委託先管理・サードパーティ管理に与える影響と対策

金融機関は、顧客の資産や信用情報といった機密性の高い個人情報を取り扱うため、特に厳格な情報管理体制が求められます。個人情報保護委員会が定める「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」は、その遵守が不可欠な基準となります。

近年、金融サービスにおける業務委託は多様化・複雑化しており、それに伴い委託先からの情報漏洩リスクも高まっています。

本記事では、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」の要点を解説し、特に「委託先の監督」に焦点を当てながら、金融機関が取るべき委託先管理とサードパーティ管理のポイントについて詳しく解説します。

金融分野における個人情報保護に関するガイドラインとは?

このガイドラインは、個人情報保護法に基づき、金融分野の事業者が個人情報や個人データ1、仮名加工情報2、匿名加工情報3 などを適切に取り扱うために遵守すべき事項を具体的に示したものです。金融機関(銀行、証券会社、保険会社など)をはじめ、金融分野に関連するサービスを提供する幅広い事業者が対象となります。

ガイドラインは、個人情報の取得・利用・保管・提供といったライフサイクル全般にわたるルールを定めていますが、特に情報漏洩などのリスクに対応するための「安全管理措置」について詳細な規定を設けています。

ガイドラインにおける「安全管理措置」の概要

安全管理措置とは、取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を指します。ガイドラインでは、以下の4つの観点から具体的な措置を例示しています。

  • 組織的安全管理措置
    • 個人データの取扱いに関する責任者の設置
    • 個人データを取り扱う従業者及びその役割の明確化
    • 報告連絡体制の整備(漏洩等事案が発生した場合など)
    • 取扱状況の点検及び監査体制の整備
  • 人的安全管理措置
    • 従業者に対する教育・研修の実施
    • 個人データの秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込む
  • 物理的安全管理措置
    • 個人データを取り扱う区域の管理(入退室管理など)
    • 機器及び電子媒体等の盗難又は紛失等を防止するための管理
    • 個人データが記録された電子媒体又は書類等の持ち運び、送受信、廃棄における対策
  • 技術的安全管理措置
    • アクセス制御の実施(担当者及び取り扱う個人情報データベース等の範囲を限定)
    • アクセス者の識別と認証
    • 外部からの不正アクセス又は不正ソフトウェアから保護する仕組みの導入
    • 情報システムの使用に伴う漏洩等を防止するための措置(暗号化、移送時の措置など)

ガイドラインにおける「委託先の監督」の重要性

業務効率化や専門性の活用のため、多くの金融機関が個人データの取り扱いを含む業務を外部に委託しています。ガイドラインでは、委託元である金融機関に対して、委託先が個人データを適切に取り扱っているか監督する責任があることを明確に規定しています。これは、たとえ委託先で情報漏洩が発生した場合でも、委託元である金融機関がその責任を問われる可能性があることを意味します。

具体的には、以下の点が求められます。

  • 適切な委託先の選定: 委託先が、ガイドラインで求められる安全管理措置を講じることができる体制を整備しているか、事前に評価・確認する必要があります。委託先の情報セキュリティに関する認証(ISMS認証など)の取得状況や、過去のインシデント歴なども評価の要素となります。
  • 委託契約の締結: 委託する業務内容、取り扱う個人データの範囲、委託先が講ずべき安全管理措置の内容、再委託の条件、漏洩等が発生した場合の報告義務や責任分担などを契約書に明記する必要があります。
  • 委託先における取扱状況の把握: 契約を締結して終わりではありません。委託先が契約通りに個人データを適切に取り扱っているか、定期的に報告を求めたり、必要に応じて監査を実施したりするなど、継続的に監督する必要があります。

金融分野における情報管理・セキュリティの特有の課題

金融分野は、その業務特性から、他の業界と比較して情報管理やセキュリティに関して特有の課題を抱えています。

  • 取り扱う情報の機密性の高さ: 顧客の預金、証券、保険、ローン、信用情報など、極めて機密性が高く、悪用された場合の被害が大きい情報を大量に取り扱っています。
  • サイバー攻撃の標的となりやすい: 金銭を直接扱うため、サイバー攻撃者にとって魅力的な標的となりやすく、高度化・巧妙化する攻撃への対策が常に求められます。
  • FinTech等による外部連携の増加: FinTech(金融サービスと情報技術を組み合わせた領域を指す)企業との連携やAPI連携など、外部サービスとの接続が増えることで、リスクポイントが多様化・複雑化しています。
  • 規制遵守の厳格さ: 個人情報保護法に加え、金融庁の監督指針など、遵守すべき規制が多く、その内容も頻繁に更新されるため、常に最新の動向を把握し対応する必要があります。
  • グローバルな事業展開: 国際的な金融取引を行う場合、GDPR(EU一般データ保護規則)など、海外のデータ保護規制への対応も必要となります。

これらの課題は、自社内だけでなく、業務を委託するサードパーティに対しても同様に存在します。委託先がこれらの課題に対応できる能力を持っているか、そして継続的に適切な管理を行っているかを見極めることが、金融機関自身の信頼性を維持する上で極めて重要です。

金融分野ガイドラインと委託先管理・サードパーティリスクマネジメント(TPRM)

「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」は、金融機関における委託先管理、すなわちサードパーティリスクマネジメント(TPRM、Third-Party Risk Management)の具体的な実践方法に大きな影響を与えます。ガイドライン遵守のためには、以下のような体系的なTPRMの取り組みが必要です。

委託先選定におけるデューデリジェンスの強化

ガイドラインが求める安全管理措置を基準として、委託候補先の情報セキュリティ体制、内部統制、プライバシーポリシー、従業員教育の状況などを詳細に評価(デューデリジェンス)する必要があります。単に「ISMS認証を取得しているか」だけでなく、金融分野特有のリスクに対応できる具体的な対策が講じられているかを確認することが重要です。

契約における要求事項の明確化と具体化

委託契約書には、ガイドラインで要求される安全管理措置の具体的な内容(アクセス制御の方法、データの暗号化基準、従業員教育の頻度・内容など)を盛り込む必要があります。また、委託先における個人データの取扱状況を委託元がどのように把握・監督するのか(報告頻度、監査の権利、立入検査の可否など)についても具体的に定めておくべきです。インシデント発生時の報告体制、原因究明への協力、損害賠償責任なども明確にする必要があります。

継続的なモニタリングと監査の実施

契約締結後も、委託先が契約内容及びガイドラインを遵守しているか、継続的に監視(モニタリング)することが不可欠です。具体的には、定期的なアンケート調査や自己評価報告書の提出依頼、セキュリティ診断結果の確認、そして必要に応じた実地監査などが考えられます。モニタリングの結果、問題点が発見された場合は、速やかに是正措置を求め、その実施状況を確認する必要があります。

リスク評価と管理の高度化

委託先ごとに、取り扱う個人データの種類や量、業務内容の重要度などを考慮してリスク評価を行い、そのリスクレベルに応じた管理策を実施することが求められます。例えば、特に機密性の高い情報を取り扱う委託先に対しては、より頻繁なモニタリングや厳格な監査を実施するといった対応が考えられます。

インシデント対応計画と連携体制の構築

万が一、委託先で個人データの漏洩等のインシデントが発生した場合に備え、迅速かつ適切な対応が取れるよう、事前に報告手順、連絡体制、役割分担などを明確にしたインシデント対応計画を策定し、委託先と共有・連携しておく必要があります。定期的な訓練の実施も有効です。

これらの活動は、単発で行うのではなく、TPRMのライフサイクル(計画、選定、契約、モニタリング、終了)全体を通じて、継続的かつ体系的に管理していくことが、金融分野ガイドラインを遵守し、顧客からの信頼を維持するために不可欠です。

ガイドライン遵守と効率的な委託先管理・サードパーティリスクマネジメント(TPRM)のために

金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」は、金融機関に対して、自社のみならず委託先も含めた厳格な個人情報管理体制の構築・運用を求めています。特に「委託先の監督」に関する規定は、サードパーティリスクマネジメント(TPRM)の重要性を改めて浮き彫りにしています。

適切な委託先の選定、契約による管理策の明確化、継続的なモニタリングと監査、そしてインシデントへの備えといった一連のプロセスを確実に実行することが、ガイドライン遵守の鍵となります。しかし、多数の委託先を抱える金融機関にとって、これらの管理業務を効率的かつ効果的に行うことは容易ではありません。

Lens RMでは、委託先管理・サードパーティリスク管理ソリューションを提供しています。本記事で解説したガイドライン対応や、効率的な委託先管理体制の構築について、お気軽にご相談ください。

Footnotes

  1. 個人情報データベース等を構成する個人情報のこと。特定の個人情報を容易に検索できるように体系的に構成したものに含まれる個人情報を指します。

  2. 他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報のこと。

  3. 特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、かつ、当該個人情報を復元することができないようにした情報のこと。

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