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2025/5/28
#ガイドライン

【バーゼル委員会文書解説】変化する委託先管理・サードパーティリスク管理(TPRM)の新たな原則

金融サービスのデジタル化が進み、企業が外部の専門知識や技術を活用する機会が増える中、サードパーティ(取引先、サービス提供事業者など)への依存度は高まっています。コスト削減や効率化といったメリットがある一方、委託先を通じたリスクも多様化・複雑化しており、委託先管理・サードパーティリスク管理(TPRM)の重要性が増しているのです。

このような背景から、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、銀行セクターにおけるサードパーティリスク管理(TPRM)の健全化を目的とした市中協議文書「第三者リスクの健全な管理のための諸原則」(Principles for the sound management of third-party risk)を2024年7月に公表しました。日本では金融庁がこの文書を公開しています。

本記事では、この新しい原則の概要と、それが企業の委託先管理やサードパーティ管理に与える影響、そして企業が取るべき対応について解説します。

バーゼル委員会「第三者リスクの健全な管理のための諸原則」の概要

本原則の目的と位置づけ

本原則は、銀行が第三者サービス提供者(Third-Party Service Provider:TPSP)との取り決め(TPSP Arrangement)に伴うリスクを適切に管理し、業務中断に対する耐性・適応・回復能力(オペレーショナル・レジリエンス)を高めることを目的としています。従来の「アウトソーシング」の概念を超え、より広範なTPSPとの関係性に焦点を当てている点が特徴です。

本文書は、銀行セクターを主な対象としていますが、TPSPへの依存度が高い他の金融機関や一般事業会社にとっても、リスク管理体制を見直す上で有益な示唆を与えます。原則の適用にあたっては、銀行の規模、複雑性、リスクプロファイル、TPSPとの取り決めの性質や重要性に応じた「プロポーショナリティ(相応性)」が考慮されます。

主要な概念

本原則を理解する上で重要な概念は以下の通りです。

  • 第三者サービス提供者(TPSP): 銀行に対し、サービス、活動、機能、プロセス、タスクを直接提供する外部の事業体または個人を指します。
  • TPSP取り決め: TPSPが銀行にサービス等を提供する際の正式な取り決め(アウトソーシングを含む)。グループ内企業からのサービス提供も含まれます。
  • 重要サービス(Critical Service): 提供が中断された場合に、銀行の存続可能性、重要な業務、または法的・規制上の義務遵守能力に重大な支障を及ぼす可能性のあるサービスを指します。
  • サプライチェーンとNth Party: TPSPがサービス提供のために利用する、さらに先の事業者群(Nth Party、下請け等を含む)。サプライチェーンの管理もリスク評価の対象となります。
  • 集中リスク(Concentration Risk): 単一または少数のTPSPへの依存により生じるリスク。銀行レベルとシステムレベル(金融システム全体)のリスクがあります。
  • プロポーショナリティ(相応性): 銀行のビジネスモデルやリスクプロファイル等に応じて、リスク管理の適用度合いを調整することを指します。
  • グループ内TPSP取り決め: グループ内であってもリスクがないわけではなく、外部委託と同様のリスク管理が求められることを指します。

銀行に対する9つの原則

本文書では、銀行がTPRMを実践する上で従うべき9つの原則を示しています。これらはTPSPとの関係性のライフサイクル(リスク評価、デューデリジェンス、契約、オンボーディング・継続的モニタリング、終了)全体をカバーしています。

  • 【原則1、2】ガバナンスと戦略: 取締役会が最終責任を負い、明確な戦略とリスク許容度を承認する。経営陣は方針とプロセスを実行する。
  • 【原則3】リスク評価: TPSPとの取り決め前および期間中を通じて、包括的なリスク評価を実施する。
  • 【原則4】デューデリジェンス: 契約前に、候補となるTPSPに対して適切なデューデリジェンスを実施する。
  • 【原則5】契約: 法的拘束力のある書面契約で、全当事者の権利、義務、責任、期待を明確に規定する。
  • 【原則6】オンボーディング: 新規TPSPとの取り決めへの円滑な移行を支援し、問題を解決するための十分なリソースを確保する。
  • 【原則7】継続的モニタリング: TPSPのパフォーマンス、リスクや重要性の変化を継続的に評価・監視し、取締役会等に報告。問題には適切に対応する。
  • 【原則8】事業継続管理(BCM): TPSPのサービス中断時にも業務継続能力を確保するため、堅牢なBCMを維持する。
  • 【原則9】終了: 計画的な終了のための終了計画と、計画外の終了のための終了戦略を維持する。

※上記の他に、監督当局向けの原則が3つ示されています。

委託先管理・サードパーティ管理への影響と企業が取るべき対応

この新しい原則は、金融機関だけでなく、広く一般事業会社における委託先管理やTPRMのあり方にも影響を与えると考えられます。特に、重要インフラ、個人情報、機密情報などを扱う委託先を持つ企業にとっては、これらの原則を踏まえた管理態勢の強化が求められます。

企業が具体的に取るべき対応は以下の通りです。

強化されたガバナンスと戦略の確立

  • 経営層の関与: 取締役会や経営層がTPRMの重要性を認識し、最終的な責任を持つ体制を明確にする。
  • 全社的な方針策定: TPSP利用に関する全社的な戦略、方針、リスク許容度を文書化し、関係者に周知する。
  • 体制整備: TPRMに関する役割と責任を明確にし、必要に応じて専門部署や担当者を設置する。
  • 網羅的な台帳管理: すべてのTPSP契約に関する最新の台帳を整備し、重要度、依存度、リスク情報などを一元管理する。

包括的かつ継続的なリスク評価の実施

  • 初期リスク評価: 新規契約前に、委託する業務の重要性、潜在リスク(戦略、評判、コンプライアンス、オペレーショナル、情報セキュリティ、集中リスク等)を網羅的に評価する。
  • デューデリジェンスの徹底: 候補となるTPSPの能力(技術力、財務健全性、リスク管理体制、BCP等)を詳細に調査・評価する。Nth Partyのリスク管理能力も評価対象とする。
  • 継続的なリスク再評価: 契約期間中も、定期的にリスク評価を見直し、環境変化やインシデント発生に応じて評価を更新する。

明確かつ実効性のある契約管理

  • 契約内容の具体化: サービスレベル(SLA)、責任分担、監査権、データ管理、セキュリティ要件、BCP/DR要件、インシデント報告義務、終了時の取扱い等を具体的に契約に盛り込む。
  • 監査権の確保: 自社および規制当局が必要に応じてTPSP(および重要なNth Party)の監査を実施できる権利を契約に明記する。
  • Nth Partyに関する条項: 重要なNth Partyの利用・変更に関する事前通知や、同等の管理水準を求める条項を検討する。

継続的なモニタリングと事業継続管理

  • パフォーマンス監視: SLAや契約上の義務の遵守状況を継続的に監視し、評価する仕組みを構築する。
  • インシデント管理: TPSPに起因するインシデントの報告体制を確立し、迅速な対応と再発防止策の実施を管理する。
  • BCP/DRP連携: 自社のBCP/DRPと連携し、TPSP側のBCP/DRPの実効性を定期的に確認・テストする。

実効性のある終了計画と戦略

  • 終了計画の策定: 契約満了等による計画的な終了に備え、データ移行、アクセス権限削除、知識移転等の具体的な手順を定めた計画を策定・更新する。
  • 緊急時対応策: TPSPの倒産や重大な契約違反等、計画外の終了に備えた代替策や移行手順を含む戦略を準備する。

「第三者リスクの健全な管理のための諸原則」は、委託先管理・サードパーティリスク管理(TPRM)におけるスタンダードに

バーゼル委員会が示した「第三者リスクの健全な管理のための諸原則」は、今後の委託先管理・TPRMにおけるスタンダードとなる可能性があります。企業は、これらの原則を参考に自社のリスク管理態勢を見直し、サプライチェーン全体にわたるリスクへの対応力を強化していく必要があります。特に、デューデリジェンスの徹底、契約管理の強化、継続的なモニタリング、そして実効性のある事業継続・終了計画の策定が重要となります。

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